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20世紀は生化学が蛋白科学,酵素科学として著しく発展をとげ,病気の解明と結びついた。特に,今世紀最後の四半世紀に至って,生物学は分子レベル,遺伝子レベルの解析が進み,分子生物学の時代に突入した。1951年秋,ケンブリッジ大学キャベンデッシュ研究所で共同研究を始めた23歳の生化学者ワトソンと物理学者で35歳のクリックによってDNAの螺旋構造が発見され,1953年,Nature誌に発表されて始まったことはご存じのとおりである1)。その後,解析機器,分析に必要なプライマーと呼ばれるペプチド鎖,抗体,さまざまな試薬を含めたキット類が商品化される時代を迎え,われわれのように臨床に明け暮れている者にとっても,患者を診察する立場にあるがゆえに,その血液から病気の本質を発見するチャンスをつかみ得る時代になった。血液病,先天異常をはじめ,さまざまな因子が絡み合う生活習慣病といわれる疾患群までも,その原因となる遺伝子異常が報告されつつある。
眼科学の分野においても,分子生物学が発展を続けており,特に網膜色素変性をはじめとする網膜の遺伝性疾患は,その病態が全くわからなかった難病であるが,1990年以降分子遺伝学の手法によって次々と遺伝子異常が発見,報告され,その成果には目を見張るものがある。ロドプシンのアミノ酸配列がNathansら2)によって決定されてから15年,その遺伝子の点突然変異がDryjaら3)によって報告されてから10年が経過した今日,日本人における網膜色素変性,眼形成異常,角膜変性など遺伝子異常の発見報告が相次いでいる。それをみると欧米の報告と日本人におけるそれが必ずしも同じ結果ではなく,発症頻度も遺伝子の異常部位も異なることがしばしばで,人類の長い進化の過程で生じてきたものであることを示しており,興味深い。
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