連載 眼の組織・病理アトラス・77
網膜静脈閉塞症
猪俣 孟
1
1九州大学
pp.266-267
発行日 1993年3月15日
Published Date 1993/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1410901473
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網膜静脈閉塞症retinal vein occlusionには,視神経内の網膜中心静脈本幹が閉塞する網膜中心静脈閉塞症central retinal vein occlusion(CRVO)と網膜内で網膜中心静脈の分枝が閉塞する網膜静脈分枝閉塞症branch retina vein occlusion (BRVO)とがある。いずれも静脈の血栓形成によって起こり,静脈血還流障害のために網膜内に出血と浮腫を生じる疾患である。網膜出血は,CRVOでは視神経乳頭を中心として放射状に広がり(図1),BRVOでは網膜静脈の閉塞部位から楔形に広がるので,その特徴的な眼底から診断は容易である。出血と浮腫が黄斑におよべば視力が著しく低下する。患者の多くは50歳以上の高齢者で,動脈硬化または高血圧を伴っている。まれに20ないし30歳代の若年者にもCRVOが発症するが,これは膠原病やベーチェット病など血管炎を伴う全身疾患患者である場合が多い。
網膜静脈の血栓形成の好発部位は,強膜篩板,乳頭面および網膜内の動静脈交叉部(図2)である。強膜節板と動静脈交叉部では,静脈と動脈が外膜を共有して接着している。そのために動脈の硬化性病変が静脈壁を圧迫して,静脈の内腔の狭細化,内皮細胞の変性や脱落の原因となる。内皮細胞が変性または消失すると,静脈壁の線溶能が低下し,そこに血小板が凝集し,フィブリンが沈着して血栓が形成される。また,乳頭面は血管がほぼ直角に曲がるために血流の変化や血液成分の変化によって内皮細胞が障害を受けやすい。
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