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はじめに
ドライアイの定義と診断基準は2016年に改定され,「様々な要因により涙液層の安定性が低下する疾患であり,眼不快感や視機能異常を生じ,眼表面の障害を伴うことがある」と定義されている(2016年,ドライアイ研究会)。また診断基準についても「涙液層破壊時間(tear film break-up time:BUT)5秒以下かつ自覚症状(眼不快感または視機能異常)を有する」と改定された。2006年の定義,診断基準と大きく異なる点は,シルマー試験による涙液量の評価および角結膜上皮障害の評価が除外されたことである。ドライアイのコアメカニズムは,「涙液層の安定性の低下」であると考えられており,涙液層の破壊がドライアイの診断において重要視されている。眼表面には親水性で高分子の糖蛋白質であるムチンが発現しており,涙液の保持などの重要な役割を担っているが,ドライアイ患者においてはムチンの発現が減少していることが知られている1)。
ドライアイの治療薬は長年,眼表面の水分量の増加を目的としたヒアルロン酸点眼と人工涙液のみであったが,不足したムチンを補充することで涙液層の安定性の増加を目的としたジクアホソルナトリウム点眼液およびレバミピド懸濁点眼液が発売され,より効果的な治療が選択できるようになった。しかしながら,点眼治療のみでは治療が不十分な重症ドライアイも確実に存在し,そのような場合は追加治療として外科的治療が選択される。近年提唱されている眼表面の異常を層別に診断するTFOD(tear film oriented diagnosis)2)により涙液層破壊パターンがarea breakを呈する症例は,眼表面の涙液量が極端に少なく,角膜上に塗り付ける涙液がほとんどない重症の涙液減少型ドライアイのパターンである。このような症例に対しては,点眼治療だけでは不十分であり,涙点を直接閉鎖することで眼表面の涙液貯留量を増やし,涙液層の安定性を増加させる効果が期待される涙点プラグや涙点焼灼術が選択される。シリコーン製涙点プラグを用いた涙点閉鎖が一般的であるが,症例に応じて液体コラーゲンプラグが選択されることもある。さらに涙点プラグによる効果があるものの,プラグの挿入が困難となった場合は涙点焼灼術が選択される。
涙液中には角膜上皮細胞の正常な分化と増殖に必須である蛋白質やビタミンA,成長因子などが含まれており,涙液量が極端に少ない重症ドライアイではこうした因子が慢性的に不足しているため,角膜上皮欠損が再被覆されず,遷延性角膜上皮欠損の原因となることがある。重症ドライアイに伴う遷延性角膜上皮欠損の治療として,成長因子や各種サイトカインを有している羊膜を眼表面に押さえつける羊膜被覆術や,強制閉瞼させることで涙液メニスカスを再建させる瞼板縫合があり,それぞれの状況に応じて選択される。
本稿では,点眼治療のみでは治療効果が不十分な重症ドライアイに対する治療を中心に述べる。
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