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はじめに
緑内障は40歳以上の成人において5%が有病するきわめて高い有病率の疾患であり,現在中途失明原因第1位の疾患である。高齢化に伴いその有病率や失明患者もさらに増加すると考えられている。診断は比較的容易で,緑内障性視神経症(乳頭陥凹)と,その乳頭の障害部位に対応した局所の神経線維欠損と視野異常を認めることにより診断される(図1)。眼圧下降が現在唯一エビデンスのある緑内障治療であり,点眼,内服,点滴,観血的手術,レーザー治療など,すべて眼圧下降を目的に加療が行われている。
治療が長期に必要なこともあり,侵襲の少ない点眼による眼圧下降が治療の中心である。現在点眼の種類は多岐にわたり,また合剤の登場により,点眼加療のみで病状が安定化する割合は大きくなっている。一方,観血的緑内障手術では,十分な眼圧下降を得られる手術成功症例は約6割程度と考えられ,特に続発的な血管新生緑内障や,難治性角結膜疾患に伴う高眼圧症例では,手術の成功例はきわめて低い。また観血的手術の長期的成績を考えると,結膜の菲薄化に伴う房水流出や濾過胞感染もみられ,決して満足のいく結果を得られていないのが現状である。
一方,日本人の緑内障の大半が正常眼圧緑内障であり,特に無治療時の眼圧が正常眼圧よりもさらに低い低眼圧緑内障の場合,眼圧下降のみでは緑内障による視野進行を阻止できないと考えられる。また,眼圧の高い緑内障でも,眼圧下降が十分に得られない症例や,手術により十分眼圧下降が得られたのにもかかわらず,さらに視野が悪化する症例も認められる。つまり,眼圧下降治療には限界が伴い,現在,眼圧下降治療しか存在しないことは,緑内障が成人中途失明原因の第1位の疾患である理由の1つと考えられる。
緑内障は乳頭陥凹拡大とそれに続発する網膜神経節細胞の細胞死が主症状であり,眼圧は1つの危険因子である。緑内障性視神経症の病態解明が細胞レベルで進むことにより,網膜培養細胞を用いたスクリーニングシステムが確立されれば,ブレークスルーをもたらすような創薬が可能になる。これまでに,Alzheimer型認知症の治療薬として海外で承認され用いられているグルタミン酸NMDA(N-methyl-D-aspartate)型受容体アンタゴニストである塩酸メマンチンが,緑内障神経保護治療薬として臨床治験が行われた。しかし,その結果は思わしくないようである。塩酸メマンチンはNMDA型受容体抑制しか効果のない薬剤で,①緑内障の病態にどの程度グルタミン酸障害が関与するのか,②逆に関与する症例はどのような病型の緑内障なのか,③自覚的なHumphrey視野検査で経過を追うことにより,薬剤の有効性を検討することができるのかなど,問題点が浮き彫りになった。
そこで,緑内障の神経保護治療を成功させるためには,①病態解明によるターゲットの同定,②どういった患者をエントリーするのか,③どのように評価するのか,この3点が同時に発展することが必要となる。このうち①は基礎研究,②,③は臨床研究により明らかにしていく必要があると考えられる。本項では,特に①について,最新の神経科学の発展から得られた知見を整理し総括する。
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