特集 眼科専門医に必要な「全身疾患と眼」のすべて
8.血液・造血器疾患および悪性腫瘍
悪性腫瘍随伴網膜症
錦織 奈美
1
,
大黒 浩
1
1札幌医科大学眼科学教室
pp.158-161
発行日 2007年10月30日
Published Date 2007/10/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1410102016
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はじめに
癌患者の一部に中枢神経系への腫瘍転移ではなく,種々の中枢神経症状を呈することがあり,これを悪性腫瘍随伴神経症(paraneoplastic neuropathy)と呼んでいる1)(表1)。このなかで網膜視覚系の障害を呈するものを癌関連網膜症(cancer-associated retinopathy:以下,CAR)として区別している2,3)。CARを引き起こす癌の原発病巣として,肺癌,特に小細胞癌が最も多く,次いで消化器系および婦人科系の癌頻度が多い。
CARは臨床的に,遺伝性進行性網脈絡膜変性症である網膜色素変性症に似た症状,すなわち杆体視細胞障害に基づく視感度の低下,視野狭窄などの症状を特徴とする。すなわちCARは,悪性腫瘍に随伴し網膜色素変性症に類似した臨床像を呈する後天性の網脈絡膜変性疾患である。CARでは原発巣の癌が臨床的に発見される以前に網膜症を呈することがあることから,網膜症が癌の早期発見につながる可能性が示唆されている。
CARの発生機序として,癌細胞と網膜の共通特異抗原に対する自己抗体が網膜の視細胞を障害することが知られている2~5)。CAR抗原としてはリカバリンやhsc70(heat shock cognate protein 70)などが,同定されており6),癌細胞に対する自己抗体として,それぞれ抗リカバリン抗体,抗hsc70抗体およびその他網膜組織に対する自己抗体が同定されている。
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