今月の臨床 産婦人科と糖尿病—基礎知識と実地臨床
妊娠と耐糖能異常
1.妊娠と糖代謝
杉山 隆
1
,
豊田 長康
1
1三重大学医学部産科婦人科学教室
pp.130-133
発行日 2002年2月10日
Published Date 2002/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409905049
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はじめに
妊娠による母体の内分泌系・代謝系のさまざまな変化は直接胎盤を通して胎児に影響を与える.これら母体の生理的諸変化の主なものは胎児の発育にとって合目的的なものである.なかでも糖質代謝においては,妊娠時の母体ではインスリン分泌の亢進が生じており,高インスリン血症傾向となる一方,インスリン抵抗性が発現して両者の間には均衡が保たれており,正常な代謝動態が営まれることによって胎児の子宮内発育にとっては好条件の環境が作られている.このような代謝環境下において胎児は胎盤を介して母体からエネルギー源を獲得しつつ発育するが,エネルギーの基本的供給系の一つが糖代謝系である.糖質代謝はその代謝過程で脂質・蛋白質代謝とも接点をもつことからも重要である.すなわちブドウ糖,遊離脂肪酸,アミノ酸は生体にとって重要なエネルギー源であり,これらは酸化あるいは肝臓で糖新生系を介してブドウ糖に変換される.特に脂質代謝と糖代謝は密接なかかわりをもつ.妊娠初期においては母体の体重増加は純粋の胎児発育分よりは大きい.すなわち胎児のブドウ糖需要は少なく,母体の同化が優位となり脂肪の貯蓄が促される.一方,妊娠末期になり胎児が急速に発育する過程においては,母体栄養素の胎児への供給分は母体の摂食以外に脂肪組織において生じる異化により一部補われると考えられる.
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