今月の臨床 婦人科癌の免疫療法
癌と免疫—基礎知識
5.腫瘍関連抗原の有用性
加藤 紘
1
1山口大学医学部産婦人科
pp.824-827
発行日 1995年7月10日
Published Date 1995/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409902173
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腫瘍関連抗原と腫瘍特異性
悪性腫瘍が異物であれば,ヒトの免疫反応で識別され拒絶されると言われる.もっともヒトはその始まりから卵と精子の異系細胞の結合である.胎児を維持する生殖免疫の詳細は不明であっても,少なくとも必要であれば異物を包容する度量がヒトにはあり,異物に対する基準も絶対的なものではないように思われる.この弱点を巧みに突いて癌細胞が現実に生存しており,かりに悪性細胞で腫瘍特異抗原を発現しても,宿主がそれに対して免疫反応を起こすとは限らないとさえ考えられる.このことを念頭に置きながら,なお悪性細胞の特徴を探索する,その生化学的なアプローチが腫瘍特異抗原の探索である.確かに腫瘍関連抗原は診断法として出発したが,それは悪性腫瘍の特徴の探索にも通じる.
残念ながら悪性腫瘍に特異的な物質は発見されていない.主な理由は悪性細胞が巧みに生理的な現象を利用して生存しているからであり,増殖にしても浸潤・転移にしても,局所で見られる個々の現象は正常組織における生理現象の応用であることが多い.癌細胞と正常細胞の違いは,個々の現象よりそれを必要とする目的の違いではないかと想像しているが,それを証明する手段はわからない.
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