今月の臨床 妊娠と血液
1.妊娠貧血
佐川 典正
1
1京都大学医学部婦人科産科
pp.550-553
発行日 1995年5月10日
Published Date 1995/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409902110
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●はじめに
妊婦の失血に対する耐性が非妊婦より大きいことから,妊娠中は血液量が増加した状態,いわゆる多血症(plethora gravidarum)の状態にあるということは中世から経験的に知られていたとされている.また,血球の濃度については,1836年には妊婦の血球濃度が非妊婦より低いことが報告されている1).赤血球濃度が正常より低下した状態を貧血(anemia)というが,妊娠中の貧血には,いわゆる生理的貧血(physiological anemia)と病的貧血(pathological anemia)があると考えられる.しかし,妊娠中の貧血の成因や背景は多様であり.しかも,血液の濃度が胎児発育や周産期死亡など妊娠の結果に及ぼす影響は必ずしも一定ではなく,正常と異常の境界をどこに引くかは報告者によって必ずしも一致していない.たとえば,WHOの勧告でも,1965年度はヘモグロビン(Hb)濃度10g/dlを正常下限としていたが2),1968年度にはHb濃度11g/dlを正常下限としている3).
本項では,妊娠中の循環血液量の変動,造血能の変化,鉄代謝の特徴,および血液濃度と産科臨床的意義などの面から,妊娠貧血を考えてみたい.
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