今月の臨床 妊娠と免疫
妊娠維持と免疫
7.母体と免疫能
佐治 文隆
1
Fumitaka Saji
1
1大阪大学医学部産科婦人科学教室
pp.159-161
発行日 1992年2月10日
Published Date 1992/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409900732
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母体免疫系からみた胎児・胎盤
妊娠は母体にとって生理学的のみならず内分泌学的,免疫学的にもダイナミックな変化を伴う現象である。免疫学的にみた場合,胎児や胎盤は父親遺伝子に由来する抗原を発現しており,一種の同種移植組織と考えられる。母体による胎児・胎盤抗原の認識は特異的あるいは非特異的免疫反応を惹起するが,これらのすべてが胎児・胎盤にとって不利に働くわけではなく,むしろ妊娠維持に有利な免疫応答も認められている。一方,妊娠中,移植組織である胎児や胎盤が母体から拒絶(流産・死産)されないためには,母体の免疫能が低下状態にあることが望ましい。事実,妊婦ではカンジダなどの真菌症やインフルエンザ,風疹,肝炎,ヘルペスなどのウイルス感染症に罹患しやすく,またいったん感染すると重症化しやすい。自己免疫疾患合併妊婦にみられる妊娠時の一時的寛解も母体免疫能の低下を示している。
したがって妊娠時の母体は,同種抗原による免疫刺激とこれを拒絶しないための免疫抑制のバランスが保たれた状態ということが出来る(図1)。
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