症例
誤診され易い,また誤診された腹腔妊娠
石井 碩
1
Hiroshi Ishii
1
1石井病院
pp.733-735
発行日 1971年7月10日
Published Date 1971/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409204454
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異性すなわち,男女関係のあるところ妊娠の成立は可能であり,また時として子宮外妊娠の発生をみること必ずしもまれではない。それゆえに古くからいわゆる外妊に関して文献も極めて多く,筆者自身も"子宮外妊娠中絶の救急輸血療法の価値についで"(北海道医学雑誌,昭和7年第10の5号)"輓近における子宮外妊娠の診断ならびに治療について"(大阪医事新誌,昭和12年8月号)を公表したこともあり,戦争と性病,ことに終戦後における該病の蔓延と共にまた子宮外妊娠の多発を見るに至りつつあることはまことに残念である。
本例は昨秋岩手医科大学における北日本産科婦人科学会総会において"診断困難なりし腹腔妊娠"と題してその要旨を発表したものであるが,その概要を記して責を果したいと思う。患者は昭和5年3月17日生れの4回経産婦で,今回妊娠は昨年5月1日より4日間を最終月経として,悪阻のためというが某地の某医療機関において6月23日人工妊娠中絶をうけたりというが,某地滞在1週間後の6月30日小樽市に帰省し,出血はなきも腹部がひどく緊張しなかなかその緊張感が日時がたつても軽快せずとして,7月7日弊院を訪ずれたるものにて,初診時多少の血性分泌物と右子宮付属器を中心とする下腹部の緊張感は認めたるも,腹水貯留のごとき波動性ある触診は得られず,またダグラス氏窩穿刺においても血液は証明されず,前医の妊娠中絶術施行という先入観念あり,7月25日開腹手術によりて初めて妊娠3ヵ月の卵胞にかこまれたる腹腔妊娠の成立ありしを知りし貴重な症例である。
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