- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
先ほど司会の加来教授から御紹介がございましたように,東大の騒動が意外なところに飛ばつちりがまいりまして,急に私がピンチヒッターを命ぜられることになりました。何分突然のことで何も準備する余裕がございませんでしたので,私が前に東大におりました時にやつておりました仕事の一端を御紹介して,ピンチヒッターとしての責を塞がせていただきたいと思います。
表題に"胎児胎盤系の機能"と書いてありますが,最近,胎児胎盤系ないしfetoplacental unitという言葉がかなりポピュラーになつてまいりました。この胎児胎盤系あるいはfetoplacental unitという言葉は,妊娠時のエストロゲンの代謝を中心にしていわれるようになつたのであります。御承知のように胎盤は非常に偉大な内分泌臓器でありまして,いろいろなホルモンを分泌しているのでありますが,その中でエストロゲン,特にエストリオールが妊娠時に非常に大量に増えてまいります。昔はそれがすべて胎盤だけでつくられると考えられていたのでありますが,無脳児の場合に普通の妊婦に比べて母体の尿中のエストリオールが非常に低い値をとり,それと呼応して,胎児の副腎が著しい萎縮を示しているということから,妊娠時のエストリオールの産生には,胎児がかなり大きく関与しているのではないかということがいわれるようになりました。そういうことがきつかけとなりまして,外国ではDiczfalusyの一派,またわが国では東大の中山助教授のグループがこの点について詳しい検討を加えつつあります。これらの研究によりますと,胎盤でのエストリオール産生経路は,卵巣や副腎のような他のエストロゲン産生臓器とは全く異なつているようであります。すなわち副腎や卵巣では,たとえばコレステロールというようなものからプロゲステロンやアンドロゲンを経てその臓器だけでエストロゲンをつくつているのでありますが,胎盤の場合にはそうではありませんで,エストリオールの材料になるアンドロゲンはその9割以上が胎児の副腎に由来しているらしいのであります。
Copyright © 1969, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.