同人放談
飛鳥雑観
前山 昌男
1
1奈良県立医科大学
pp.249
発行日 1962年3月10日
Published Date 1962/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409202599
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筆者は昨年(昭36年)10月半ばに奈良県立医科大学に赴任したのであるが,奈良県と云えば"大和"と呼ばれている日本古来の土地である。現在は県庁所在地である奈良市が奈良朝以来の繁栄を続け,その周辺を含めた古代の仏教文化は世界にあまねく知られて居り,更に奈良県全体に亘つて,春夏秋冬四季夫々に名所が散在して居り,筆者自身誠に佳き環境の地に勤務出来たものと愉しく思つて居る次第である。然しながら一度思いを自己の専門分野にめぐらした時,いささか心重きものがある。勿論,着任2カ月位では精しい実態は把握出来ないが,奈良医大における産婦人科の患者を見るに子宮癌・晩期妊娠中毒症患者が極めて多い。しかもこの子宮癌患者の多くはⅢ期癌に近い場合が多い。日本の子宮癌患者は欧米の文明国に比し進行期癌が多いと報告されているが,筆者は特に奈良に於てその感を深くした。今少し早く外来を訪れて呉れたならばと残念に思う事が再三ある次第である。
更に晩期妊娠中毒症に於ても然りである。統計的に見ても奈良県は妊産婦死亡率が全国で一番高い,即ち,1959年の調査にて全国平均13.1/出産10,000に比し本県は24.8/10,000である。この点に関して筆者の考えでは奈良県は四面を山に囲まれて居り,その盆地に多数の農村が散在して居つて交通の便が良くない。
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