同人放談
医学教育と医師教育
古賀 康八郎
1
1九州大学
pp.264-265
発行日 1961年3月10日
Published Date 1961/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409202396
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わたくしたちは医学教育すなわち医師教育と云つた様なばく然とした考えの下に,あるいは全くそんな区別があるのか気付かないまま教育しているのが実情である。ふだん研究や学会や診療,その他雑用に追いまわされてこんなことに気をくばる暇がない程臨床医学教育者はあまりにも多忙であることは否めない。実際には医学教育と医師教育は表裏一体であるべきものと思うが,年末の多忙のあい間に思いついた事をまとまりなく考えてみたい。
大学教育について学校教育法第52条に"大学は,学術の中心として,広く知識を授けるとともに,深く専門の学芸を教授研究し,知的,道徳的及び応用的能力を展開させることを目的とする"とある。医学教育もこの教育法に従つて教育されなければならない事は当然である。しかるに医師国家試験は,医師としての常識を試すのであつて,高等な医学の試験ではないとある当事者は云つている。ここに両者の矛盾があり,教育者を迷わせる根源がある。教育法に従つて広く深く専門の高級な医学を教育していたのでは国家試験に適応しない危険がある。国家試験の成績をよくするためには通俗的な平易な医学をよくのみこませることに力をそそがねばならない。すなわち,どうしても国家試験目的の教育に制約されることになり,教育程度はややもすると低下するおそれがある。
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