診療室
子宮癌患者の貧血に対するコバルト鉄の応用
岩本 康
1
,
黒川 卓清
1
1横浜市立大学医学部産婦人科学教室
pp.590-593
発行日 1956年8月10日
Published Date 1956/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409201410
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緒言
子宮癌患者に於ては出血及び造血能力の低下に依り重度且頑強なる貧血を惹起し,その対策に於ては吾人等しく苦慮する所である。古来貧血の処置としては還元鉄が使用されて来た所であるが,その副作用として食思不振,悪心,嘔吐,腹痛,便泌,下痢等があり,その投与は患者の全身状態を却つて悪化せしめ,長期に亘る使用は不可能な事を屡々認める所である。茲に於て最近に至りグルコン酸鉄が斯かる胃腸障碍を殆んど見ない事が判り長谷川氏に依り推奨されている所であり,又更に貧血の治療として鉄剤のみを投与するのは不適当であると云われている。それはポルフィリンと鉄との結合の際に触媒として作用する銅も貧血治癒の課程にて欠乏することがあるからで銅の投与に依り鉄の利用率も増大される。又葉酸は周知の如く悪性貧血に対して優秀な治癒効果を有する。更に1951年Heilmeyer, Begremannはコバルトが赤血球生成に強い刺戟作用を示すと述べ,その後多くの者に依りその貧血に対する治療的効果は確認された。以上述べた如く現在に於ては貧血に対する療法として経口的には鉄剤を投与するのみでは不充分であり上記の銅,コバルト,葉酸等を含めて投与する事が望ましい。産科領域に於ては最近河方氏はコバルト鉄を妊娠貧血,弛緩性出血に使用して好結果を得たと報告している。
吾々はエーザイ株式会社提供に依るチヨコラB鉄を子宮癌患者の貧血に使用し少数乍らその結果を得た。
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