診療室
両側の卵巣と卵管の摘除後における妊娠例
秦 良麿
1
1岩手医科大学産婦人科学教室
pp.854-856
発行日 1955年9月10日
Published Date 1955/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409201246
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卵巣を両側とも摘除すれば,そのごは常識的には当然妊娠しないはずである。ところがわたくしは数年前に,両側の卵巣と卵管を摘除したのち2年たつてから受胎し,妊娠経過にもかくべつの異常がなく,無事に成熟児を分娩した1症例を経験したが,さいきんそのこの様子をもしることができたので,はなはだ興味のふかい症例であるとおもい,ここに簡単に報告する。
このような症例がきわめてめずらしいものであるということは,いま手もとにあるここ20年間の丈献をあさつてみても,わがくにではその報告がみあたらず,わずかにCanadaのToronto大学のW.A.Scottが,1936年に1例を報告しているにすぎないことからもうなずける。かれはそのなかで1902年にDoranがじぶんの1例とともに,それまでに報告されている少数例について記載していることをのべている。しかしこれらの症例では,おゝくは卵巣の摘除が容易でなかつたために,卵巣組織の一部が残存したことの可能性を老慮する必要があるという。Scott自身の症例は,31歳の3回経産婦で,さいごの分娩から10ヵ月たつたころ,左の卵巣がオレンジ大に腫大しているのに気づき,これがしだいに大きくなるので,1934年2月28日開腹手術をおこなつた。そのさい右の卵巣もライム果大の腫瘍を形成していることがわかつた。左右ともに類皮嚢胞腫で癒着はまつたくなかつた。
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