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妊婦の血清内カルシウム・マグネシウム無機燐量の變化に就いて
野島 喜美造
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1慶應義塾大學醫學部産婦人科教室
pp.171-177
発行日 1948年8月1日
Published Date 1948/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409200129
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緒言
古來より「胎兒は母體の旺盛なる増殖力を有する良性腫瘍なり」といはれる如く妊娠、分娩、産褥、授乳を通じて母體には二重の重荷がゝる。即ち母體はこの旺盛なる増殖力ある腫瘍ともいふべき胎兒に惜氣なく榮養素を供給して健全なる發育を達成せしむると共に、他方母體自身は單なる非妊時の榮養維持とは異れる、分娩、産褥、授乳に準備せる所謂全身的妊娠性變化を遂行せねばならぬ。故に妊婦に於ては總ての榮養素が多量に要求せられその同化、異化作用は昻進し、榮養素は貯藏沈著し、同時に分解排泄作用もたかまれるは自明の理なり。されば妊婦の諸新陳代謝は古くより多數研究せられ解明せられたる所少しとせず。即ち基礎代謝が妊娠の進行と共にプラス4%から13%に迄上昇することは既に多くの研究者により觀察記録され、蛋白質代謝では窒素の畜積が認められ、又脂肪及含水炭素代謝にても亦同樣な觀察が行はれてゐる。鑛物代謝に於ては妊娠時その必要量は増加して母體に貯藏畜積さるる事は多數の研究者により證明せられたる所にして、同時に鑛物質の血液内含有量の變化も亦研究せられしも未だ充分ならず。人體を構成する榮養素としてあげられてゐる鑛物質はカルシウム、マグネシウム燐、ナトリウム、鹽素、カリウム、鐵、銅、硫黄沃素等であるが、余は骨骼形成の主要素たるカルシウム、マグネシウム、無機燐の妊婦血清内含有量變化を追及し、いさゝか結果を得たので茲に報告す。
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