特殊講義
生物統計學の手引き(1)
上田 喜一
1
1慶應義塾大學醫學部衞生學教室
pp.58-70
発行日 1946年7月20日
Published Date 1946/7/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409200077
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醫學の研究に統計的處理の必要なことはいまさら論じる必要もなく多くの人の十分認識されてをられることゝ思はれる。近年またわが國でも醫學統計學に關する數種の良書が刊行されてゐるのでこれらを參考として自らしたしく調査資料を整理し或は實驗成績に結論を下した方々も少くないことゝ信じる。從つていまさらこのやうな手引をかく必要もない。わが醫學界の水準はもつと高いはづであると一應は考へられるのであるが,次にのべるやうな2つの理由で今囘安藤先生のお勤めに從ひ本誌上に數囘にわたつて筆をとることなつた。すなはち都會の方々は戰災のために參考書を燒失し,また現下の出版事情では再刊も遲々としてみとほしがつかない状態であるから,これらの方々に公式或は諸種の計算表を呈供し,また新しくこの道にはいらうとする人の當座の手引きとなればよいと考へる。もう1つの理由は近年新しい立場にもとづく統計學が數學者の側から熱心にとなへられ,あたかも從來の統計學は全面的に誤りであるかのごとき印象をうけて當惑してゐる方々も少くないやうに感じられる。新統計學はことに少數例の統計に有力な手段を呈供するから研究室における醫學の實驗等には十分に活用すべきものであるが,一方舊來の統計學すなはち大數例をあつかふ統計學もなほその使命を保持してゐると信じる。
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