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はじめに
若年がん患者の罹患率は近年増加傾向を示しているが,手術療法,化学療法そして放射線療法などを中心とした集学的治療や診断方法の進歩などに伴い,その治療成績は向上してきており,多くのがん患者の生存率が改善してきている1).しかし一部の若年女性がん患者は治療によって原疾患が寛解するものの,後に閉経の早期発来や妊孕性消失など,女性としてのQOLの低下といった問題を抱える2).女性がん患者の8%が40歳以下の若年女性であるという報告があり3),若年女性がん患者は化学療法や放射線療法によって卵巣機能不全に陥る可能性がある.
そこで若年女性がん患者において化学療法や放射線治療前に卵子や卵巣を体外に取り出し,その影響を回避する方法が検討されてきた.体外授精技術が進んだことで,受精卵を凍結することは今では問題なく実施されており,がんに対する集学的治療の影響を回避するための妊孕性温存治療として受精卵凍結が実施されている.しかし若年女性がん患者が必ずしも既婚者とは限らず,未婚女性に対しては卵子凍結を実施せざるを得ない.成熟卵子は細胞体積が大きく球形であるため,単位体積あたりの表面積が最小となり,浸透圧変化による物理的影響を受けやすく,原形質膜透過性が低いことや染色体の異常をきたしやすいために卵子凍結による出産成功例がきわめて少ないとされてきた4).ここ最近の報告では卵子凍結融解後の妊娠,分娩は受精卵凍結後の妊娠率と比較すれば低いものの,以前に報告されていた数パーセントという数値ではなくなりつつあり,具体的にはRienziら5)は15.8%と報告している.がん患者に対して胚凍結ならびに卵子凍結を施行する際,ほとんどの場合化学療法が導入されるまでの期間が短期間であることから,1周期もしくは2周期で得られる卵の数で,将来の妊孕性を確実に温存できるかどうかが問題となってくる.
一方,2004年にDonnezら6)によってヒトで初めて卵巣組織凍結後,自家移植により生児を獲得したという報告がなされた.現在まで9年の歳月が経過し,論文として公表されている生児は約20名である.卵巣組織凍結では卵巣皮質を凍結保存するため,通常の卵子凍結と比較するとはるかに多い卵子数を確保できることとなる.しかし実際に卵巣組織を移植し,生着後月経周期が再開し,排卵を開始するかどうかが大きな問題となってくる.
本稿では,若年女性がん患者に対する妊孕性温存治療に関する最近のトピックを概説する.
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