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はじめに
2007年,京都大学の山中博士らのグループによって人工多能性幹細胞(iPS細胞)が作成された1).iPS細胞は,体細胞にOct4,Sox2,Klf4といった転写因子を導入し,人工的に後天的遺伝子(エピジェネティック)修飾をリセットすることで作成される幹細胞であり,胚性幹細胞(ES細胞)に非常によく似た性質を有している.iPS細胞の作成には例えば患者の皮膚の一部や少量の末梢血があればよく,もともとが患者自身の細胞であるために免疫拒絶を受けないという利点があることから,再生医療の資源として大きな期待を集めている.
マウスにおいては,iPS細胞をマウス初期胚(胚盤胞期胚)に注入してやると,胚の発生に同調してキメラマウスを形成し,キメラマウスの生殖巣内にはiPS細胞に由来する精子あるいは卵子が形成されることが知られている2).残念ながらヒトでは倫理的,技術的に同様の実験を行うことが不可能であるため,発生能力を持った生殖細胞への分化能については確認されていないが,理論的にはiPS細胞は体細胞だけでなく,精子や卵子を含む生殖細胞に分化可能であると考えられる.このことから,iPS細胞の利用価値は再生医療分野だけでなく生殖医療分野にも大きく広がる可能性がある.
iPS細胞は,主に以下の3点について生殖医療に貢献しうると考えられる.
1)試験管下で分化誘導することにより生殖細胞発生過程を可視化し,詳細な分化機構の解明を可能にする
2)難治性不妊症の患者からiPS細胞を作成し生殖細胞の誘導を試みることで,不妊症の原因と解決法を探索する手段となる
3)不妊症の患者から作成したiPS細胞を用いて生殖細胞を作成し,直接または間接的に不妊治療に用いる
本稿では生殖医療分野におけるiPS細胞の可能性について順次論じていきたい.
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