今月の臨床 産婦人科外来ベストナビゲーション
ここが聞きたい105例の対処と処方
III 不妊症
【チョコレート嚢胞】68.挙児希望の患者です.卵管や子宮には器質的異常はないものの,右卵巣に4~5cm径のチョコレート嚢胞と思われる腫瘤があります.
中村 絵里
1
,
鈴木 隆弘
1
,
杉 俊隆
1
1東海大学医学部専門診療学系産婦人科
pp.557-559
発行日 2007年4月10日
Published Date 2007/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409101501
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1 診療の概説
挙児希望患者に対しては妊孕性温存を重視して保存治療を第一選択とするが,超音波,CT,MRI,腫瘍マーカー検査などの補助診断を駆使して,できるだけ悪性所見を否定すること,十分なインフォームド・コンセントを行うことが重要である.卵巣子宮内膜症性嚢胞(チョコレート嚢胞)は卵巣明細胞腺癌や卵巣類内膜腺癌の発生母地となり,年齢40歳以上および嚢胞の長径が10cm以上でそのリスクが高まる 1).また現在では子宮内膜症性不妊を疑う場合,腹腔鏡検査は必須の検査とされている.子宮内膜症の確定診断,R-ASRM分類 2)による進行期の評価(腹膜病変,癒着,チョコレート嚢胞)を行う.不妊患者の55%が腹腔鏡下に子宮内膜症と診断される 3).
R-ASRM分類では,チョコレート嚢胞に対する配点が高いため,4~5cmの嚢胞が存在すればIII期以上が確定し,重症の子宮内膜症と位置づけられる.しかし実際に不妊に関与するのは嚢胞の存在ではなく,腹膜病変や卵巣,卵管の癒着であることが判明し 4),R-ASRM分類の進行期は不妊の予後を反映しない 5).また嚢胞存在例の体外受精─胚移植(IVF-ET)成績の検討では,嚢胞が存在しても良好な卵子が獲得でき,悪影響を及ぼさないことが示された 6).ただし嚢胞の大きさという観点からは破裂予防,周囲への圧迫軽減,排卵誘発の反応性を上げるなどの利点から,ある程度縮小させる意義はあると考えられる.
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