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はじめに
子宮内反症(uterine inversion)とは,子宮底部が陥没または下垂して子宮内膜が外方に反転し,子宮内膜面が腟内または外陰に露出した状態である.子宮内反症は内反の程度により全内反症,不全内反症,子宮圧痕と分類される(図1).また,発症時期により分娩後24時間以内に発生する急性内反症,分娩後24時間以上で1か月以内に発生する亜急性内反症,さらに分娩後1か月以上経過してから発生する慢性内反症に分類される.Daliら1)は241例の子宮内反症を検討し,分娩に伴う子宮内反症が229例(95%)で,そのうち急性子宮内反症が191例(83.4%)と大部分を占めていると報告している.
急性子宮内反症のリスク因子として初産婦,胎盤の子宮底部付着,付着胎盤,巨大児,オキシトシン投与などが指摘されているが2, 3),胎盤が剥離する前に,強く臍帯を牽引したり子宮が収縮していない状態で子宮底部を下方に圧迫したりするなど,分娩第III期の不適切な処置が大きな原因と考えられている.子宮内反症の頻度は報告者により大きく異なり,Achannaら4)は31,394分娩中4例(7,848分娩に1例)と報告しているが,Hussainら5)は57,036分娩中36例(1,584分娩中1例)であったと報告し,そのうち27例(75%)が分娩第III期の誤った処置が原因であったと述べている.Rachaganら6)も17年間に15例の子宮内反症を経験(頻度は4,836分娩中1例)し,注意して分娩第III期を管理することにより急性子宮内反症は回避できると結論している.当センターの過去5年間について子宮内反症の発生を調査したところ,2例の急性子宮内反症を認めた(頻度は5,166分娩中1例).
急性子宮内反症は迅速な診断と治療が遅れると,時に母体死亡につながる重篤で予知困難な産科救急疾患の1つである.本稿では,最近われわれが経験した急性子宮内反症症例の診断と治療の実際を呈示することにより,急性子宮内反症の診断と治療のポイントについて述べる.
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