今月の臨床 エキスパートに学ぶ―漢方療法実践講座
【処方の実際】
6.女性の心身症
後山 尚久
1
1藍野学院短期大学
pp.1086-1091
発行日 2008年8月10日
Published Date 2008/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409101838
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はじめに
ヒトの身体は縦横無尽にはり巡らされた蜘蛛の糸のごとき情報伝達系によって細胞や器官,あるいは臓器が連結し,常に交互の信号の往復により平衡調整がなされている.外傷やウイルスの侵入などの外部要因を除けば,病的環境は1つのシステムの破綻による線系病態ではなく,さまざまな生体機能維持機構を巻き込んだ複雑系病態である.そのため,アメーバや線虫での細胞内物質変動や哺乳類においてもその細胞破砕による分画別のin vitro実験によって得られた知見が,ヒトの病気の本態にいかほどかかわっているかは,十分な討議なくしては結論し得ないものである.
漢方医学は,元来ヒトが複雑系(表現型としての「証」の概念)であることを規定しており,それを踏まえて治療学の理論構築がなされている1).心身医学は機能系異常による身体疾患を治療する際に力を発揮する医療分野であるが,その基本的思想は「心身相関」である.しかし,心そのものがいまだに科学的な説明がなされていないため,心身相関が何を意味するのかは,答えるための入り口すら見いだせない.ヒトの病気を複雑系として,そのままの形で受け入れ,治療も複雑系に対応するための手法が実施されてきた「漢方医学」と「心身医学」を対比しながら心身症への漢方処方の実際について解説したい.
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