今月の臨床 エキスパートに学ぶ―体外受精実践講座
卵子・卵巣凍結保存の将来展望
久慈 直昭
1
,
持丸 佳之
1
,
山田 満稔
1
,
浜谷 敏生
1
,
浅田 弘法
1
,
末岡 浩
1
,
吉村 泰典
1
1慶應義塾大学医学部産婦人科学教室
pp.994-997
発行日 2008年7月10日
Published Date 2008/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409101820
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はじめに
卵子・卵巣凍結保存の成功率はこれまできわめて低率であったが,両法ともこの10年ほどの間に画期的な技術的進歩があり,その結果,成功例が複数の施設から報告されたことから,女性の妊孕性保存法として注目を集めている.
しかし,卵細胞が受精卵と異なり,構造的に遺伝子変化を受けやすいMII期の細胞であることから,児への影響を考慮してその安全性を今後厳密に検証しなければならない.マウス以外のほとんどの動物では,卵巣刺激や体外受精法さえ確立してないため,卵子・卵巣凍結保存は動物でのデータ蓄積もなく,やはりまだ現時点では実験的な技術である.
とはいえ,これまで妊娠を断念せざるを得なかった悪性腫瘍の女性患者に妊孕性温存の道を開く卵子・卵巣凍結保存に対しては,これを希望する患者のニーズはきわめて強い.そのため,臨床で応用する際には実験的な技術であることを含めて患者に正しい情報を伝えることが必要であり,アメリカ不妊学会では2006年に卵子・卵巣保存の臨床応用に関する会告を出しているほどである1).
ここでは卵子・卵巣凍結保存の成功率改善の原因となった技術革新と,現在解決できずに残されている問題点を概説し,これを克服するため現在進められている研究を将来展望とともに紹介する.
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