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はじめに
胎児発育遅延(fetal growth restriction : FGR)は多くの原因で起こり,その病態は原因により大きく異なる.FGRの原因としては大きく2つに分けられる.1つは,染色体異常や母体の薬物投与などによる先天性奇形,胎盤や臍帯の異常(chorio-angioma,chronic partial placental separationなど)などによるもので,先天的な奇形や形態異常によるものである.もう1つは,妊娠高血圧症候群(pregnancy induced hypertension : PIH)や慢性腎炎,糖尿病などの合併妊娠,さらに抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipid antibody syndrome : APS)など,その病態の本質が血管内皮障害で,その結果生じる胎児胎盤循環不全によるものである.本稿は,PIHとともにFGRについて述べていくので,本稿におけるFGRは血管内皮障害を病態の本質とするFGRを対象とすることにした.
PIH,FGRともにその原因の詳細は不明である.しかし,血管内皮障害という共通した病態を有しているため,両疾患は胎盤の形態や病理所見,絨毛細胞や胎盤の血管内皮細胞の形態や機能の障害,さらに臨床像において,きわめて多くの類似点がある.血管内皮障害という共通した病態の存在を基本とし,それに種々の因子が関与することにより,PIHとFGRという異なった臨床像が発症すると推測される.もちろん,両者が合併する場合も多々みられる.
これまで,PIHやFGRの胎盤の光学顕微鏡的所見や電顕的所見の特徴に関しては多くの報告がある.近年,単なる形態的な特徴だけに焦点を当てるのではなく,組織学的特徴に免疫学的あるいは生化学的手法を用いて検討し,PIHの発症原因や予知に関する多くの報告がみられるようになってきた.本稿では,胎盤の形態的な特徴ではなく,胎盤形態の変化から免疫学的あるいは生化学的手法を用いて新たに導かれた知見に焦点を当てて述べていく.
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