今月の臨床 産婦人科外来ベストナビゲーション
ここが聞きたい105例の対処と処方
V 腫瘍
【術後排尿障害】90.広汎性子宮全摘術後の排尿障害の患者です.
沖 明典
1
1筑波大学大学院臨床医学系機能制御医学専攻婦人周産期医学分野産婦人科
pp.612-613
発行日 2007年4月10日
Published Date 2007/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409101523
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1 診療の概説
小林隆著の『子宮頸癌手術』では「術式の性質上膀胱支配神経のすべてがその主要根幹において切断され膀胱に麻痺が起こることは周知の事実である」と記載されている.子宮頸癌や一部の子宮体癌に対する広汎子宮全摘術の主要な術後合併症の1つであり,術後の膀胱麻痺を回避するべく膀胱神経の温存術式が工夫されて発表されている.しかしながら本術式が癌を対象としているため,II期症例など進行例では完全切除と膀胱神経温存が両立しない場合も多い.膀胱は畜尿と排尿という相反する機能を併せ持ち,これらは膀胱平滑筋と括約筋が協調して相互作用として営まれる現象である.下部尿路を支配している神経は主に骨盤神経,下腹神経,陰部神経である.骨盤神経はS2─4を由来として,副交感神経優位で直腸の両側を通り膀胱に分布する.下腹神経はTh10─L2に由来し交感神経優位であり,陰部神経はS2─4由来の体性神経由来で外尿道括約筋に分布する(表1).広汎子宮全摘術ではこれらの神経のうち主に骨盤神経が損傷されるため,程度の軽重はあるものの相対的に交感神経優位の膀胱環境となる.神経因性膀胱のパターンとしては麻痺性の機能障害で,膀胱の充満感は消失し,膀胱壁は過進展となり,膀胱容量は増大し,膀胱の収縮不全と内尿道括約筋の弛緩不全により残尿量も増加することとなる.この麻痺は短期で改善する症例もあるが,回復までに半年から1年以上待たなければならない症例や改善しない症例もあるため,外来管理時に問題となることがある.
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