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はじめに
1935年,SteinとLeventhal1)は,両側卵巣の多嚢胞性変化,月経異常(無月経や希発月経),多毛,肥満を主徴とする疾患をStein-Leventhal症候群として報告した.これが現在の多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome : PCOS)の概念の起源となっている.1964年,Stein2)は,卵巣の楔状切除術を施行することにより患者の95%に月経周期が回復し,85%が妊娠することを報告した.このことからStein-Leventhal症候群は卵巣自体に異常があるのではないかと推測されるに至った.その後,Stein-Leventhal症候群と思われる多くの症例が分析された結果,臨床症状は症例ごとに異なるが卵巣の形態学的所見は共通していることより,これらの病態を呈する疾患群は総称してpolycystic ovarian disease(PCOD)と呼ばれるようになった3, 4).それ以降,内分泌学の進歩に伴いホルモン測定が普及するとLHの過剰分泌や高アンドロゲン血症も判明し,男性化徴候,不妊,月経異常,肥満など多様な症候を呈し,病態も一元的には説明できないため症候群として扱われるようになった.
PCOSの診断基準は,国により微妙な相違があり,また時代とともに修正されている.これはPCOSの病像自体に人種差があり,どの症候を重視するかで異なることが一因となっている.欧米では多毛症の頻度が高いため高アンドロゲン血症が重視される傾向がある.1990年に米国NIHで開催された会議においてPCOSの定義をアンドロゲン過剰症(ほかの内分泌疾患を除外),無排卵の2項目とした.その後,2003年にロッテルダムで開催された欧米のワークショップにおいて,その定義は希発排卵あるいは無排卵,アンドロゲン過剰症,多嚢胞性卵巣の3項目のうち2項目を満たすものと変更された5).現在本邦では,月経異常,LHの異常高値(FSH正常値),多嚢胞性卵巣が必須項目となっているように,まだ世界的にその定義は完全に統一されていないのが現状である.詳細については診断基準の稿を参照されたい.
一般的に排卵障害は,視床下部性,下垂体性,卵巣性というように原因部位別に分類可能であるのに対し,PCOSでは主要な病変部位がいまだに不明であるため従来の分類パターンに当てはめることができない.しかし,PCOSに関する研究は多方面からその病因論に迫るものが進行中であり,そのメカニズムの詳細が次第に解明されつつある.従来,中枢機能の異常説,卵巣と副腎の酵素異常説,遺伝子異常説などが提唱され,そして最近ではインスリン抵抗性の関与などが注目されている.PCOSのメカニズムについて多くの研究成果が報告されているが,本稿では異常が推測される項目を整理し病態を中心に再考してみたい.
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