- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
はじめに
出産した女性の10%前後が産後うつ病(postnatal depression)に罹患しているにもかかわらず,精神科医のみならず,周産期医療にかかわる専門家でも,適切な対応ができることは稀である.こうした背景には,産褥期の精神障害の診断と分類1)が未だに正しく認識されていないこと,母子保健と精神保健という縦割りの地域行政システムの中で検出される産後うつ病は氷山の一角でしかないこと2)といった理由が指摘されている.
産後うつ病は,社会心理的要因(母親としての新たな役割変化に対する適応,仕事の中断や継続,夫との関係といった人生の出来事に関連した変化など)と生物学的な要因(急激な内分泌学的変化,産後自己免疫機能異常など)の関与が示唆されているが,さらに母子相互関係への影響3),産後うつ病女性の子どもの認知障害および神経発育への有害な影響4)も近年明らかになっている.したがって,こうした要因および影響を考慮した産後うつ病のヘルス・ケアが重要である.一方,産褥期を女性のライフサイクルからみると,思春期,更年期の時期とは異なり,産後うつ病は好発時期が予測できるために,ケアならびに介入・予防が容易にできる利点を有する.
厚生労働省が進める「健やか親子21」において,産後うつ病の発生率の目標が重点課題のひとつに挙げられ,現状のベースライン13.4%から2010年には減少方向へと設定された.しかしながら残念なことに,日本では周産期精神医療という分野はまだ発達途上の段階である.本稿では,産後うつ病に対する先進的な「care」を全国的なレベルで進展させるために,試行的段階の取り組みではあるが施設型モデル(外来および入院治療),インターネットを使用したサポート・システムなどを紹介してみたい.なお「cure」については,別稿5)を参照していただきたい.
Copyright © 2003, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.