今月の臨床 母体症候―救急疾患の鑑別と初期対応
妊娠中の救急症候
5.背部痛・腰痛
渡辺 博
1
,
多田 和美
1
,
西川 正能
1
,
大島 教子
1
,
田所 望
1
,
稲葉 憲之
1
1獨協医科大学産婦人科
pp.266-268
発行日 2003年3月10日
Published Date 2003/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409101050
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はじめに
妊娠・産褥期に腰痛を訴える女性は多い.文献によると50~70%の妊婦が,程度の差はあるものの腰痛を経験するという1, 2).妊婦の腰痛は姿勢性腰痛という,妊娠による生理的変化に伴う腰痛であることが多い.姿勢性腰痛とは,子宮が大きくなるにつれて下腹部が前方に突出し重心が体の前方に移動して,非妊時にハイヒールを履いた時にみられるスウェイバックという姿勢となるために生ずる腰痛のことをいう.また骨盤輪不安定症という,骨盤の緩みが原因で起こる腰痛の頻度も少なくない.姿勢性腰痛や骨盤輪不安定症の多くは分娩後自然に軽快するため,妊婦の腰痛は出産すれば軽快するマイナートラブルとして扱われる傾向にある.一方,救急疾患の症候として急性腰痛・背部痛を呈する疾患も表13)に示すように数多くある.しかしながら妊婦の腰痛は生理的なものとする先入観と,妊娠中にはX線検査などによる診断を躊躇する一般的な傾向などに災いされて,救急疾患の場合でも確定診断や初期対応が遅れがちである.
本稿では,当科で経験した症例を中心に,母体の背部痛・腰痛の原因が緊急対応が必要な疾患であった場合の対応について検討するとともに,骨盤輪不安定症とその対応について示す.
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