今月の臨床 妊娠中の偶発症候─産科医のプライマリケア
症候への産科プライマリケア
4. 胸痛・背部痛
遠藤 紫穂
1
,
池田 智明
1
1国立循環器病センター周産期科
pp.1276-1279
発行日 2006年10月10日
Published Date 2006/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409101291
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はじめに : 妊娠と症候との関連性
妊娠中に胸痛や背部痛を主症状して発症する疾患には,生命を脅かす疾患が含まれている.例えば,平成8年度厚生省心身障害研究「妊産婦死亡の防止に関する研究」(主任研究者 : 武田佳彦)による1),平成3~4年の2年間にわが国で死亡した320例の妊産婦死亡の原因のなかで,肺塞栓症,羊水塞栓症の直接産科的死亡24例,心血管系疾患と呼吸器疾患の間接産科的死亡10例が胸背部痛を主症状とした.このような,緊急性を有する疾患を疑い,可能性のある場合には,高次施設へ紹介することが必要である.
しかし,ほとんどの胸痛を訴える妊産婦は,生命の危険がないものである.Klinkmanら2)は,胸痛を主訴に救急外来を受診した399例の原因を解析したMIRNET研究を行った.その結果,不安定狭心症と心筋梗塞など,緊急性を持つ患者は全体の1.5%とわずかであり,そのほかは生命の危険がないものであった.そのうち,肋軟骨炎を含む筋・骨格系疾患が最も多く36%,その次に逆流性食道炎が13.4%,安定狭心症は10.5%であった.その他,心因性8%,肺疾患5%,その他不明16%と続いた.この研究は,妊婦を扱ったものではないため,妊産婦のみを対象とした場合,その頻度は変わってくるであろう.例えば,妊娠に多い逆流性食道炎などによる胸痛の比率が増加してくることが考えられる.しかし,妊産婦といえども,胸背部痛を訴える患者を,「マイナートラブル」と片付けずに,常に心筋梗塞,肺塞栓,大動脈解離および緊張性気胸などの生命を脅かす,緊急性のある疾患を除外する態度が必要である.
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