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はじめに
低侵襲といわれている腹腔鏡下手術であるが,再手術を要する重症合併症は従来の開腹手術に比べむしろ多いといわれている.悪性腫瘍の手術では広い範囲の剥離を必要とし,しかも手術操作も複雑であるため,そのリスクはさらに高くなる可能性がある.また長期予後にも配慮する必要があり,不完全な手術は許されない.したがって安全に手術を進めていくためには正確な鉗子操作,hand eye coordinationの修得が必須であり,また特に局所解剖の理解,把握は最も重要なポイントと考える.
ところで,後腹膜リンパ節郭清は婦人科悪性腫瘍の治療手技として根幹をなすものの1つである.その役割は,まず診断学的な意味では腫瘍の拡がりを把握し,適切な後治療を決めるためのステージング,そして治療的役割としてmicroemboliの段階での完全切除,また減腫瘍として化学療法や放射線治療の効果増強などが考えられる.
特に骨盤リンパ節は婦人科癌の転移の頻度が高い部位であるため,郭清の意義は大きい.従来より行われてきた開腹術に対し,近年の内視鏡導入による新たな動きがすでに始まっている.1987年にフランスのDargent1)が胸腔鏡を用い腹膜外アプローチで骨盤リンパ節生検を行ったのが始まりである.その後,Querleuら2)が腹腔鏡下に骨盤リンパ節郭清を始めている.われわれは1989年から開腹による傍大動脈を含む後腹膜リンパ節郭清を行ってきたが,広汎な癒着による腸閉塞特に放射線治療後のきわめて重篤な腸管合併症などの経験から,新たなリンパ節郭清の術式を模索していた.
そのような折り,1997年にDargentが来日した際の出会いが発端で,1998年から内視鏡下骨盤・傍大動脈リンパ節郭清を開始したのである.しかし,当初いきなりこの手法を踏襲することはできず,徐々にわれわれなりの工夫を行いながら安全性を追求してきた3).また,過去に開腹で行ってきたリンパ節郭清に内視鏡を導入するに当たって危惧されたのは,郭清が不完全となること,合併症の増加,癌の長期予後の悪化であった.それらの点を克服する方法として,完全性を求めて術野の展開法や術野の維持法,摘出リンパ節の回収法などを工夫した4).郭清が傍大動脈リンパ節に及ぶ際は後腹膜鏡,すなわち腹膜外アプローチで行っている5).一方,骨盤リンパ節郭清のみの際は経腹膜アプローチで行っている.本稿では,施行頻度の最も高い経腹膜骨盤リンパ節郭清術について紹介する.
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