視座
医学以前のこと
小野 啓郎
1
1大阪大学整形外科
pp.907-908
発行日 1983年9月25日
Published Date 1983/9/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1408906813
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例の鞭打ち症が,このところ,ほとんど姿を見せなくなった.追突事故の件数は減ったわけではないし,即効的な治療が開発されたとも聞かない.解決されたのではないが,しかし,正体がわかってくるにつれて騒動が自然とおさまってきたとみてよいのではないか.つまり「えたいの知れぬ症状が,関係者の間に,やたら,不気味さをかきたてていた」ということである.
経験も知識も役に立たない,えたいの知れない病気を前に立ちすくむ,こんな体験を持たない医師はおそらくあるまい.幸いなことに医学は姑息的治療を用意してくれているし,時もまた,しばしば,医師に味方するものだ.しかしそうした事態にこそ医師は真価を問われる.医師としての真価にとどまらず背景をなす教育や合理精神,つまりは民族の科学性まで問われるということが鞭打ち騒動の一つの教訓かと思う.同じことが白ろう病にもあてはまる.
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