動き
サンタンヌ病院の図書室にて
小木 貞孝
pp.118-121
発行日 1959年2月15日
Published Date 1959/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405200062
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サンタンヌ病院の図書室は,すりきれた石の階段をのぼった2階にあって,サルドギャルドという職員食堂のまむかいに小さな入口がある。中に入ると,薄暗い閲覧室が書棚にかこまれてある。左手の高い壇上に図書掛のばあさんがいて入つてくるものをジロリとみる。ここは病院のはずれなので自動車の騒音もきこえず,ことに午前中にいくと利用者も少いので静かである。そんなときに席について,赤や青に表装された本の背を色ガラスごしの光の中でぼんやりみていると,フランス精神医学の莫大な蓄積量に圧倒されるようで,何か途方にくれるような不安感におそわれる。
蔵書数は定期刊行物をのぞいて13,000冊といわれるが,はつきりした数は例のばあさんもわからないという。定期刊行物としては古いAnnales Medico-psychologiquesが1843年の創刊だから,すでに100年以上も続いているわけだ。それ以前のピネルやエスキロールから考えてこの長い年月の間に発行された単行本や論文の数は大へんなものにちがいない。
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