境界領域
組織相互作用と初期発生での細胞クロンの選択
川上 泉
1
Izumi KAWAKAMI
1
1九州大学理学部生物学教室
pp.247-255
発行日 1968年3月25日
Published Date 1968/3/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1408903895
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発生分化における組織相互作用(まえがきにかえて)
現在の発生学は混乱期にあるとしばしば聞かされる.そのように言われる理由は,一つには発生学がほとんど生物学の全分野と密接に繋がるために,研究対象の点でも,方法論的にも多岐であること,他方,分子生物学的な手法が適用されるべくして,簡単には適用されないもどかしさのためであるように思われる.この言葉は,発生学分野の研究者に対して,その研究と他の生物学領域との繋がりが常に意識されねばならないこと,また極めてモデル的な方法論の歴史的な発展を続けてきた発生学の中で,自分の研究がどのような位置にあり,発生学の将来の発展に対してどのような意味を持つかを意識すべきであるという警告として受止めねばならない.いずれにしても,発生学自体の問題としてだけでなく,生物学,医学への応用という点からしても,発生学が不満足な状態のままに止つていることは確かである.この状態においては,個体,器官,組織,細胞のあらゆるレベルにおける研究を常に相互に関係付けて進め,これまでの発生学にえてして多かつた概念的な原理にとらわれずに観察,実験の結果の読みが行なわれることが必要であろう.
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