最新基礎科学/知っておきたい
遺伝子治療
田中 栄
1
1東京大学医学部整形外科
pp.352-353
発行日 1999年3月25日
Published Date 1999/3/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1408902669
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近年の遺伝子工学のめざましい進歩は,様々な遺伝性疾患の原因を分子レベルで解明するのに貢献してきた.また,骨粗鬆症,慢性関節リウマチなど単一遺伝子の異常では説明できないような疾患についても,ポリモルフィズムなどの手法を用いて疾患の発症,あるいはその重症度と関連する遺伝子の存在が明らかにされつつある.このような中で疾患の本体である異常な遺伝子自体を治療しようとする発想がでてくるのは当然のことであり,「遺伝子治療」はそのような流れの中で生まれた新しい治療として位置付けることができる.
1980年にUCSFのClineらは末期サレセミア患者の骨髄細胞に正常β-グロビン遺伝子を導入し,患者に戻すというex vivo遺伝子治療を行った.しかし,この治療は倫理的・社会的な合意が得られないままに強行され,また科学的根拠にも問題があったため各方面からの厳しい非難をあび,治療は直ちに中止させられた1).この事件をきっかけとして,米国ではNIHを中心として遺伝子治療の技術的・倫理的問題が繰り返し調査・検討され,BlaeseおよびAndersonらによって1990年9月に合意の得られた世界最初の遺伝子治療としてアデノシンデアミナーゼ(ADA)欠損症患者の治療が開始された.
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