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整形外科における組織移植といえば,まず骨移植が挙げられる.骨移植についてのはじめての記載は1682年,Meekrenによる頭蓋骨欠損への犬の骨の異種移植に関するものであるが,自家骨移植が普及するようになったのはOllier(1830-1900)の業績に負うところが大きい.皮膚移植も手の外科などでは日常茶飯事の手術で,Baronio(1804)がはじめて羊を用いた実験に成功し,Wolfe(1875)が人で全層植皮を行ったのが最初とされている.その後一世紀の間に,骨・関節の同種移植が腫瘍切除後の欠損に応用されたり,さらにはマイクロサージャリーを応用した切断肢・指再接着,趾の手への移植,血管柄付骨移植や遊離皮弁移植などが整形外科手術の常識を一新した.
このところ,肝移植成功のニュースとそれに伴う脳死問題に刺激されて,整形外科領域でも同種組織移植に対する関心が急速にたかまってきたようである.すでに日整会においても移植問題等検討委員会が発足しており,「移植に関するガイドライン」なるものが示されている.死体の骨を採取して移植に用いることは,昭和29年にすでに「法的には問題なし」とされていたらしく,十分なインフォームド・コンセントが得られておれば,骨の同種移植は全く問題なく実施してよいとのことである.それに伴い,骨に限らず各種組織,例えば,関節,靱帯,筋肉,腱,神経,皮膚,そしてこれら種々の組み合わせによる血管柄付複合組織移植,例えば,骨皮弁,筋皮弁,あるいは手,足,指,趾などの移植もそろそろ実現可能な状況になってきたといえる.勿論,これらを実現させるためには,ドナーの選択,組織保存法や免疫抑制法などの問題が山積しているが,少なくとも心臓や肝臓などのように,是が非でも脳死者からの組織でなければということは少ない点で,実現し易いかもしれない.
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