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最近,若手医師の国外留学希望者が減っているとの話があります.私は,毎年数回,国際学会に出席しますが,日本人医師の参加者,発表者ともに減っている気がしてなりません.こうした内向き傾向の一因に語学,特に英語の問題があるといわれています.ある国際間の比較調査では,日本の高校生の英語力は中国や韓国はもちろん,アフリカの国々よりも低いとの報告もあります.政府もこの点には危機感を持っており,グローバル化政策という旗頭のもと,英語は小さいときからやらないとダメだということで,小学校から英語の授業が始まることになりました.言葉は大切な意思伝達手段ですが,同時に長年積み重ねられたその国の文化そのものであり,われわれは日本語を通じて知らず知らずのうちにわが国固有の文化を学び,日本人としてのアイデンティティを確立してきたはずです.何の目的もなく,「英語は必要だから」と子供に強制しても,日本人としての芯を持てない大人になったり,「なんで英語をやるの?」と反発し,むしろ英語が嫌いになる子供が増えるだけかもしれません.
以前,本コラムで帝京大学の河野博隆教授は,こうした「行きすぎた英語教育」に警鐘を鳴らされています(51巻3号).「学会や講演会で最新の情報は得られるし,日本にいて普通に臨床をやっている分には英語ができなくても困らない」との声も耳にします.たしかにわが国は,政府や外資系企業などごく一部を除き,英語が出来なくても何ら仕事や日常生活に困ることがない,世界でもめずらしい国です.しかし,残念ながら英語は科学,文化,政治などあらゆる分野で国際共通語として情報交換手段となっており,特に若い先生方にとってその習得はもはや避けては通れないものです.
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