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はじめに
炭酸ガス(二酸化炭素,CO2)を経皮吸収させることにより,局所への効果を期待する治療法は,古くはヨーロッパにおける炭酸泉治療から始まっている1).この効果については,炭酸ガスによる血管拡張,血流増加作用を中心としており,さらには組織内の炭酸ガス濃度増加によるBohr効果により,赤血球中のヘモグロビンの酸素解離を促進し,組織への酸素供給を促進させることによると推察されてきた.近年では,炭酸ガスを経皮吸収させる方法として,中空糸膜を用いた人工炭酸泉が開発され,間欠性跛行などの血流障害の適応が報告されている2-4).また,ヨーロッパでは天然炭酸泉由来ガス浴が間欠性跛行やレイノー症状に有効とする報告がある5,6).また,炭酸ガスを皮下注射し,皮下脂肪の減少を図る治療も報告されている7,8).ただし,これらの治療は,人工炭酸泉では装置が高価であり,また炭酸泉内の炭酸ガス濃度はその量に限界(1,000ppm)があることや,入浴,足浴などの手間がかかること,天然炭酸泉ガスはそのガス自体の入手が困難であること,さらに,炭酸ガスの皮下注射は手技が煩雑で,感染リスクなども懸念されるなどが挙げられる.その結果,あまり多くの医療機関で利用されているとは言いがたい.
この問題点を解決するために,われわれは,ネオケミア株式会社と共同で,新たな高濃度炭酸ガス経皮吸収システムの開発と研究を行ってきた.これは炭酸ガス経皮吸収促進剤(ハイドロゲル)を皮膚に塗布し,その上をビニール製の袋で覆うことで密閉し,そこに純炭酸ガスを送気して経皮吸収させるものである.(国際特許公開番号WO2004/002393).このシステムを用い,ハイドロゲルによる炭酸ガスの皮膚透過性の促進効果と,このシステムで炭酸ガス経皮吸収を行うと,施行した局所において,血管拡張,血流増加のみならず,生体内のpHが低下し,赤血球のヘモグロビンの酸素解離を促進し,人工Bohr効果をもたらすことを証明した9).当システムは,以前から推察されていた炭酸ガス経皮吸収の薬理効果の原理を,科学的に証明できている唯一の炭酸ガス経皮吸収手法であると考えられる.
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