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はじめに
骨は悪性腫瘍の転移臓器として頻度が高く,骨転移は病的骨折,疼痛,脊髄圧迫による神経症状,高カルシウム血症などさまざまな問題を生じ,患者のQOLを著しく低下させる.血液やリンパの流れにより癌細胞は体内のあらゆる臓器に到達が可能であるが,転移巣が形成されるのは到達した癌細胞のうちのごくわずかである.1889年にPaget1)は,癌転移巣の形成が癌細胞と標的臓器の環境によって成立するという,「seed and soil theory」を提唱した.乳癌,前立腺癌は骨転移の頻度が高く,そのことは骨髄環境が乳癌細胞,前立腺癌細胞の生着,増殖,進展に適していることを示唆する.転移病変を形成するためには,癌細胞が原発巣から遊走して循環系に進入し(intravasation),循環系で生存,標的臓器に到達し,脈管から抜け出して(extravasation)標的臓器で増殖するといった多くの過程を要する2).癌の骨転移が進行するには破骨細胞を介した骨吸収が必要であり,腫瘍細胞はPTHrP,IL-8,TGF-β,RANKLなどさまざまな因子を介して破骨細胞を分化・成熟させることが知られており,これまでの基礎研究はゾレドロネートやデノスマブなど近年の骨転移治療の進歩に大きく貢献している.
がん研究において蛍光イメージングは有用な技術であり,その最も大きな利点は「生体内での腫瘍の可視化」にある.蛍光イメージング以外の方法で腫瘍を観察するためには,マウスを安楽死させ,組織を摘出し,固定したのちに染色する必要がある.この方法で観察した場合,観察時の変化が後にどのような変化をもたらすかを知ることは不可能である.一方,蛍光標識した腫瘍細胞を蛍光イメージング装置で観察すると,腫瘍の増殖や進展,治療効果を非侵襲的かつ継時的に観察することができる3,4).これまでにわれわれは緑色蛍光蛋白(green fluorescent protein:GFP),赤色蛍光蛋白(red fluorescent protein:RFP)を用いることにより,悪性腫瘍の肺転移,リンパ節転移,肺転移,骨転移を生体内で観察する手法を確立してきた5-13).転移臓器の中でも,骨髄は硬い皮質骨に覆われているため,骨転移の初期の変化を観察することが極めて困難である.しかし,近年のレーザー顕微鏡の進歩により,皮質を破壊せずに生体内で骨髄を観察することができるようになってきた14).本稿では,蛍光イメージング技術を用いた骨転移巣の観察について紹介する.
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