最新基礎科学/知っておきたい
炭酸ガス経皮吸収を用いた筋力増強
酒井 良忠
1
Yoshitada SAKAI
1
1神戸大学大学院医学研究科リハビリテーション機能回復学
pp.516-520
発行日 2016年6月25日
Published Date 2016/6/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1408200550
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はじめに
炭酸ガス(二酸化炭素)を経皮吸収させて薬理作用をもたらす治療法は,古くからヨーロッパにおいて天然炭酸泉1)が用いられてきた経験がある.この薬理作用は,炭酸ガスの血管拡張作用による血流増加や,ボーア効果を引き起こし,組織への酸素供給を促進する作用が推察されている.また,近年では人工炭酸泉が慢性閉塞性動脈硬化症に用いられたり2-4),天然炭酸泉由来ガス浴が間欠性跛行5)やレイノー症状の改善6)に有用であるとの報告がある.しかしながら,炭酸泉は溶け込む炭酸ガスの量に限界があり,入浴,足浴といった手間がかかる.また,天然炭酸泉由来ガス浴は,事前の入浴の必要性や,ガスの入手が困難なことから普及に問題がある.さらに,炭酸ガスを皮下注入する治療法7,8)も報告されているが,手技が煩雑であり,感染リスクも考えられる.
われわれはネオケミア株式会社と共同で新たな高濃度炭酸ガス経皮吸収システムの開発と研究を行ってきた.これは炭酸ガス経皮吸収促進剤(ハイドロゲル)を皮膚に塗布し,ビニール製の袋(アダプタ)をかぶせて密閉し,そこに純炭酸ガスを送気して経皮吸収させるものである(図1).これは非常に簡便かつ,侵襲もほとんどないシステムである(国際特許公開番号WO2004/002393).このシステムを用い,われわれはハイドロゲルを用いることで,炭酸ガスが効率的に皮膚を透過できること,人体において人工的にボーア効果をもたらし,ヘモグロビンの酸素解離を促進することを証明している9).
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