視座
胸椎腰椎手術—前方回帰のトレンドと落とし穴
種市 洋
1
1獨協医科大学医学部医学科整形外科学
pp.397
発行日 2015年5月25日
Published Date 2015/5/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1408200196
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脊椎外科における前方手術,特に胸椎・腰椎前方手術は周囲を心,肺,肝,腎などの主要臓器や腸管,大血管群に囲まれるという解剖学的特性から,これらの臓器を直接取り扱わない整形外科医にとっては,とかく敬遠されがちである.しかしながら,椎体と椎間板といった「支持組織としての脊柱」の主要部分は前方に存在し,これらの部位に病巣が存在する場合は,手術のターゲットとして避けては通れない部位である.脊椎前方要素はひとたび展開されてしまえば大変になじみ深い構造物となり,何ら抵抗なく手術手技をスムーズに実施できるという経験をされたことのある脊椎外科医は少なくないと思う.いわゆる“access surgeon”に展開を依頼するのはこのためであるが,日常診療ではいちいちこれを行っていては大変に非効率的である.
たとえば,腰椎固定術の主流は,後側方固定術(PLF)からPLIFやTLIFといった,後方進入による椎間固定術へパラダイムシフトが起こって久しいが,これも荷重分担の大きな前方要素で椎体間固定を行うことが力学的,生物学的にも有利であり,良好な治療成績が得られるというエビデンスに基づいた自然の流れである.しかし,後方経路からの前方手術は硬膜外腔への過剰な手術侵襲は避けられず,出血や神経組織への潜在的リスクが大きな問題である.重度側弯症に対する変形矯正術では,前方からの椎間板切除による前方解離は常套手段であるが,これをPLIFに準じたアプローチで行うことはない.これはPLIFはあくまで椎間板のごく一部分を切除するのみで,椎間解離としての威力が限定的であることによる.
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