視座
医療安全を巡る患者との齟齬
大川 淳
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1東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科・先端医療開発学系・先端外科治療学・整形外科学分野
pp.821
発行日 2012年9月25日
Published Date 2012/9/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1408102442
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現在,整形外科診療科長とともに,大学附属病院全体の安全管理の責任者を任されています.そこで悩まされるのは,「医療事故」という言葉です.医療事故は,国民にとってはいまだに過失とイコールですが,国立大学附属病院長会議の定義では,過失の有無にかかわらず診療上患者に発生した死亡,生命の危険,病状の悪化などの身体的被害・苦痛などとされています.この定義からすると,医療上不可避であった合併症も「医療事故」に含まれます.ところが,「事故」という言葉が一人歩きして,合併症であっても過失が背景にあるに違いないと誤解されることが少なくありません.ほとんどの医師は利用可能な医療資源をできる限り有効に使って最良の医療を提供できるように努力していますが,いまだに国民との間に埋めがたい溝があるように感じます.
私たちは患者の自己決定権を保証する目的で,インフォームド・コンセントを充実させてきました.整形外科手術では院内感染,骨癒合不全や神経合併症などが一定の頻度で発生することを説明し,最近では肺梗塞で生命に影響する可能性にも言及します.そのうえでサインをもらい手術に望みますが,ひとたびこうした合併症が実際に起きると,そんなことが起きるのであれば手術をしなかった,過失があるはずだというクレームを受けることになります.もちろん,一部には技術的にも人間的にも未熟な医師が関わる医療事故があることを否定しません.ただ,最終的な結果が悪ければ,過失の有無とは無関係にすべて医師や病院に責任を求める姿勢は,私の理解を超えるときがあります.
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