連載 知ってますか?整形外科手術の変遷・5
骨折治療―John Hunterからtissue engineeringの時代まで
小野 啓郎
1
1大阪大学
pp.778-791
発行日 2012年8月25日
Published Date 2012/8/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1408102429
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骨折治療史の概要
戦傷の治療は,先史時代にさかのぼるものと想像される.Edwin Smith Papyrus(エジプト)には骨折治療の処方があり,開放骨折は治療不可能として遺棄されたと記されている.長い治療の歴史にもかかわらず,骨癒合の日数はHippocratesの時代とさして変わらない(表1,図1)22).
整復と包帯(リネン,“のり,油脂”を混ぜることも)あるいは副え木による固定法(immobilisation)は中世の西欧のみならず,永い医学の歴史を誇る中国やインドでも共通していた.トルコに起源をもつとされるギプス包帯(包帯に添加した焼石膏の水和による硬化)が普及するのは19世紀である.脱臼整復と骨折の治療を普及させたのは,数少ない外科医よりも,整復師(bone setter)であった.開放骨折でさえなければ,骨折は“寄せておけば,やがて治る”という経験則が稼業として成り立った理由だろうか.英国整形外科の祖とされるThomas(1834~1891)が生涯を通して掲げた骨折の治療原理は“rest, absolute, uninterrupted and prolonged”であった30).下肢や脊椎の骨折治療は安静臥床が原則であったし,骨折した患肢は前後の関節も含めて固定された.
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