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はじめに
人口の高齢化や動脈硬化を促進させる環境因子の増加により,急性大動脈解離と急性大動脈瘤破裂を呈する患者は増加の一途をたどっている.診断の遅れがそのまま死亡につながる救急疾患であるため,急性期における迅速かつ的確な診断と治療が重要な課題となっている.近年,急性大動脈解離と急性大動脈瘤破裂を「急性大動脈症候群」と呼称し,診断上の注意を喚起する啓蒙がなされているが,初診時での正診率は驚くほど低い.東京都監察医務院における行政解剖例の検討によれば2),発症から6時間以上生存した171例中105例が医師を受診しているにもかかわらず,63例(61.4%)が不幸な結果を予測できずに帰宅させられ,しかも生前に正しい診断がなされた例はわずか1例のみであったという驚愕の結果が報告されている.また,Spittellら5)は,メイヨークリニックにおける急性大動脈解離236例を検討したところ,すでに診断がついて紹介された59例を除いた159例のうち,初診時の正診率は62%にすぎず,17例(28%)は病理解剖で初めて診断がついた,と報告している.
診断が困難な最大の理由は,胸痛,腹痛,背部痛,腰痛,呼吸困難,冷汗,意識障害,嘔吐,失禁,下血など,症状が多彩なことにある.整形外科医にとって注目すべきことは,腰痛や背部痛を主訴とする場合が極めて高率なことである.Darling1)は,腹部大動脈瘤が破裂した場合,90%以上で腰痛または背部痛を伴うと述べ,Spittellら5)は,大動脈解離stanford B型(上行大動脈に解離を認めない)において,腰痛・背部痛のみを症状とした例が52%であったと報告している.そのため,運動器プライマリケアにおいて,急性大動脈症候群は,遭遇頻度こそ少ないものの,最も見落としてはならない疾患群のひとつである.
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