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冒頭から卑近な例で申し訳ないが,筆者には2008年10月から院内感染に悩まされ,2009年1月下旬には病院の管理者としてマスコミを通じて世間に謝罪した苦い経験がある.外国旅行中に危篤となって当院救命救急センターへ搬送された患者に感染していた多剤耐性アシネトバクターを,救命救急センターの22名と某外科系病棟4名の合計26名の患者に感染させるという不祥事であった.感染を伝播させたと考えられたのは救命救急センターの呼吸器系機材と某外科病棟での創処置であった.院内感染が鎮静化するまで手洗い・消毒や清潔な創処置についての度重なる職員教育などを行い,救命救急センターと某外科系病棟への新規入院患者の受け入れを中止し,某外科による手術も禁止した.いったん院内感染が起こるとその制御がいかに困難であるかを体験した.また外科系の一員として患者だけでなく施設全体に重大なダメージを与えうる手術部位感染(surgical site infection:SSI)に関する包括的な知識を身につける必要性を痛感した.
待望の整形外科領域での極めつけの専門書,『整形外科SSI対策―周術期感染管理の実際』が発行された.総勢90名を越える専門家による労作であり,わが国の整形外科学の泰斗である菊地臣一福島県立医科大学理事長兼学長とSSIに関する第一人者である楠正人三重大学教授により,臨床現場ですぐに役立つよう実践的に編集されている.Ⅰ章では周術期感染対策について概説されている.感染を起こさないための術前のSSI対策や実際的な手術時の手洗い・手袋・ドレープ・ガウンの仕方などがわかりやすく解説されている.Ⅱ章では整形外科領域での横断的な周術期感染対策の基本を,手術・手技別および特殊な問題をもつ患者について記載されている.さらに現在広く行われている貸し出し器械についても述べられている.Ⅲ章では整形外科医が知っておくべき感染発症時の実践的な対応を部位別の具体的な手術に即応して教示されている.またSSIに関して手術室や病棟でよく議論になる事柄がQ&Aに簡潔にまとめられ,要所では実際に治療に難渋した症例を「症例で学ぶ」として追加されている.診断・治療のポイントや実際にどう対応したかなどが簡素でしかも手に取るように示されている.
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