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■はじめに
腰椎椎間板ヘルニアおよび椎間板変性をはじめとした重度の椎間板障害に対し,再生医療を目的とした様々な分子生物学的アプローチ4),バイオマテリアル10)を用いた動物実験が行われてきている.臨床的には変性すべり症などの重度の椎間板障害に対し,脊椎固定術が行われているが,隣接椎間障害,可動性の喪失,高額な医療費など問題点も多い.
腰椎椎間板ヘルニアは,椎間板変性を背景に発症し,腰痛,下肢痛を引き起こす疾患である.本症は生涯罹患率80%といわれる腰痛の,大きな原因のひとつでもある1).その好発年齢は20~40歳代の青壮年期であり,男女比は2~3:1で,社会的にも労働生産性の低下などの問題を引き起こす.椎間板疾患の危険因子としてこれまで重労働,振動の曝露,喫煙,スポーツなどの後天的要因,環境因子が強調されてきた.しかしながら,近年の疫学的研究で,腰椎椎間板変性および椎間板ヘルニアには遺伝性が存在することが示唆されている.Matsuiら9)は若年性の腰椎椎間板ヘルニア患者家系とヘルニア患者のいない一般集団家系を比較し,患者群では,椎間板ヘルニアの家族内での罹患率が5.6倍であったと報告している.また,双生児研究においては,Sambrookら14)は172人の一卵性双生児と154人の二卵性双生児の腰椎MRIを撮像し,椎間板間隙,シグナル変化,椎間板膨隆,前方の骨棘の4項目について比較検討し,それらの遺伝率は74%であることを証明した.以上のような事実から,腰椎椎間板ヘルニア(椎間板疾患)は遺伝性素因が強く関与した疾患であることは疑いない.
これまで,腰椎椎間板ヘルニアの原因遺伝子として,COL9A22),COL9A312)〔α2,3(Ⅸ)コラーゲン〕,MMP318)(マトリックスメタロプロテアーゼ3),VDR6)(ビタミンDレセプター),AGC15)(アグリカン)などの遺伝子との相関が報告されている.このように,椎間板変性が複数の遺伝子と関わっているという事実は,本疾患がいわゆる多因子要因によって発症する可能性を示唆する.
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