メディカルエッセー 『航跡』・10
メキシコの小児外科医
木村 健
1
1アイオワ大学医学部外科
pp.750-751
発行日 1997年6月20日
Published Date 1997/6/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407902746
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1984年のメキシコ小児外科学会は,メキシコシティーから西に1時間程飛んだグアダラハラで開かれた.2年前のグアダラハラ初訪問に続いて,こんどは小児外科学会のメインゲストとして招いてもらい,アミーゴ達と懐しい再会をした.アミーゴ達というのは,“悪性”アレオラに率いられたグアダラハラ小児病院の外科チーム10名.ドクトールアレオラは本名をベニグノアレオラというが,“ベニグノ(良性)”とは誰一人として呼ぶものはない.みんなに“マリグノ(悪性)”と呼ばれている.一旦話しだすと演壇から引きずり下ろされるまでしゃべりつづける点が“悪性”と呼ばれる理由だそうだ.
学会の前夜祭は10人ほどのマリアッチが奏でるラテンミュージックに乗ってはじまった.400人ほどの出席者の殆んどはカミさんや恋人連れで休養かたがたの学会参加であるから,パーティーが盛り上らぬわけがない.突然会場が暗くなり,ドラムの連続音とともにスポットライトがステージ中央に立っバンドリーダーに当てられる.ソンブレロを頭に載せ鼻下に八の字ヒゲを蓄えた男が,「ドクターキムラ,グアダラハラへようこそ」と流暢な日本語を発するのである.つづいて,「今日は日本の神戸からやって来た特別ゲストシンガーに,いま日本で大流行の『雨に咲く花』を唄ってもらいます」とアナウンスするではないか.何たる不意討ちとアミーゴ達を恨んでみてもときすでに遅し.
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