綜説—今月の臨床
消化器外科手術の周術期における抗菌薬投与の問題点
谷村 弘
1
,
石本 喜和男
1
1和歌山県立医科大学消化器外科
pp.483-489
発行日 1994年4月20日
Published Date 1994/4/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407901527
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Ⅰ.はじめに
消化器癌に対する広汎なリンパ節郭清手術や臓器移植など手術術式が拡大化され,周術期における感染症の発症防止対策の良否が患者の予後を大きく左右する.特に準無菌手術と汚染手術が圧倒的に多い消化器外科手術の進歩は感染症との戦いの歴史でもあり,腸内細菌を代表するグラム陰性桿菌や嫌気性菌に対して強力な抗菌力を示す抗菌薬の術中・術後の投与は必須であった1).その結果,術後感染症のかつて主な起因菌であった E.ColiやK.Pneumoniaeなどのグラム陰性桿菌の検出率は著しく減少し,なお減っていないのはP.aeruginosa のみである.それと引き換えに,S.aureus やEnterococcus spp.などのグラム陽性球菌の検出率が増加してきた.Enterococcus spp.は腹腔内感染や胆道感染から高率に検出される.
しかし,重篤な腸炎や術後肺炎を引き起こし,特にβラクタム剤に多剤耐性を示すことから,消化器外科術後感染症の起因菌として現在最も大きな問題になっているのはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphulococcusaureus,MRSA)である2,3).さらに,このMRSA感染の流行が第3世代セフェム剤の普及時期と重なったことから,その関連性が注目された.
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