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はじめに—なぜ今,便秘症が注目されるのか
便秘症は日常臨床で最も多く遭遇する疾患の一つであるが,その疾患概念についてわが国では定義が定まっていなかった.2017年に日本消化器病学会関連研究会より「慢性便秘症診療ガイドライン」1)が発刊され,便秘の定義と分類,治療に関するエビデンスが収集され,消化器専門以外の医療従事者でも標準的な診断から治療までの見通しが可能となった.ガイドラインでは,便秘は「排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」と定義されている1).これは疾患概念であり,問診時には次の4項目,①便の性状,②排便後の気分(残便感など),③排便時の気分(排便困難感など),④排便の頻度,を参考にするとよい(図1).患者の便秘に対する訴えは複雑であり,また複合的である.したがって臨床医は,排便回数や便の硬さなどの定型的なclosed questionにとどまらず,目の前にいる患者が,どの症状のために“便秘”であると訴えているのかを十分に聴取する必要がある.
便秘治療の大きな変化として,新規治療薬の開発が挙げられる.便秘は以前より重要なcommon diseaseの一つであったが,最近まで使用できる薬剤が限られていたため,注目される疾患ではなかった.特に外科医にとっては加療の対象でなかったかもしれない.これまで治療薬としてはおもに,効果発現が早い大腸刺激性下剤であるアントラキノン系のセンノシド(プルゼニド),センナやジフェニール系のピコスルファート(ラキソベロン)などが頻用されてきたが,長期投与による効果減弱が指摘されており,患者の満足度も高くはなかった.しかし,2012年以降,新たな便秘症治療薬として,ルビプロストン(アミティーザ)が承認され,2017年にはリナクロチド(リンゼス),ナルデメジントシル酸塩(スインプロイク),2018年にエロビキシバット(グーフィス),ポリエチレングリコール(モビコール)と,新規治療薬が続々と上市されるに至った.近年登場した新薬は作用機序がそれぞれ異なり,これは,高齢者など多くの合併症をもった患者に対する薬剤処方の選択肢が大きく広がり,便秘治療にinnovationを引き起こすことを期待させる.
ガイドラインが策定され,使える薬剤が増えたことで,便秘はもはや“漫然と”薬剤を使用し続ける疾患ではなくなっている.本稿では,特に新薬に着目しながら,慢性便秘症における最近の治療について述べたい.
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