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■胃ポリープの治療が論議の対象になるのはなぜか
胃ポリープが出血源となつたり,腹痛の原因となつたりすることで治療の対象となることは殆んどない.また最近では胃ポリープの胃癌の前駆病変としての立場は著しく低く評価されるようになり,この方面からの治療の必要性も限られたものとなつてきている.最近20年間のX線診断や内視鏡技術の進歩は多数の胃ポリープ症例に関する病理組織学的研究ならびに臨床経験を可能にした.胃ポリープの本態に関する認識とそれに関連した治療の考え方はこの期間の研究を通じてほぼ解決したかのようにも考えられる.それでもなお特集"治療に関し「注意すべき疾患」"の1つとして取上げられるのは何故であろうか.何がcontroversyとして残されているのであろうか.
まず胃ポリープという疾患名の曖昧な所がその原因の1つと考えられる.我々は胃ポリープと聞いただけで直ちに1つのイメージが脳裏に浮ぶ.しかし厳密に説明を求められればその答えは必ずしも容易ではない.ポリープという用語は元来肉眼的形態に基づく名称であるにもかかわらず病理組織学的見解を除外しては成立しない.形状は"ポリープ様"ということで似ていても"根つからの癌"はポリープとは呼ばれない.また平滑筋腫などの非上皮性腫瘍は除外されているし,上皮性の腫瘍でも迷入膵はあくまで迷入膵であつてポリープの仲間入りはさせて貰つていない.こうした考え方は昔の誰かが,あるいは筆者が無理に定めたものでもない.筆者の研究も欧米の論文を読むことから始まつたが,Borrmann Konjetznyの頃から既にそのようになつていたし,その後のそれ程多くない欧米の胃ポリープに関する論文でもやはり同様に取扱われており,平滑筋腫や迷入膵が胃ポリープとして記載されているのを見ていない.
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