特集 臓器大量切除と栄養
巻頭言
一般大手術と栄養
葛西 森夫
1
1東北大学医学部第2外科
pp.946-947
発行日 1978年7月20日
Published Date 1978/7/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407206980
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生体は組織に損傷をうけた場合に,その修復を何よりも優先させる.自然界の動物はほんの小さい負傷でもきびしい生存競争の中で大きなハンディキャップとなり,餌を得ることが困難になるだけでなく,自らが天敵に喰われる立場にたたされる.天敵から身をかくすのが生命をつなぐ唯一の方法であり,回復するまでは餌はおろか水を飲むことも困難な状況に置かれる.このような状態で生命を維持する為に必要な水分とカロリーは,体内に貯蔵されていた蓄えか,あるいは身体を構成している材料を以つて補給するしかない.その上に創の修復に要するすべての素材も,身体の中で損傷をうけていない組織から供給される.このような絶対飢餓においてさえ創傷治癒機転が進行することは,創傷が治癒しない限り生命の維持が困難な自然界に生きている動物の驚くべき適応反応ということが出来る.
このことは人間においても同じである.30年前までは,外科患者に輸血も補液も殆んど行なわれず,せいぜい手術前に生理食塩水1,000mlを大腿皮下に注射するぐらいで,手術後には経口摂取が許される迄患者は絶対飢餓に近い状態に置かれていたのである.しかし,このような情況下でも,胃切除患者の過半数は治つていたのである.即ち患者は数日間栄養をとらなくても創傷治癒を完成する力を持つている.このことはしかし,手術患者の栄養補給をいい加減にしてよいことを示すものではない.このような患者では,回復までに10kgもの体重減少があり,健常組織の大きな犠牲によつて,やつと創傷治癒が行なわれていたのである.当時,胃切除死亡率は高く,全身状態のよい若い人でないとその侵襲になかなか耐え難かつたのである.
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